前回のお話はこちらから!
今回は、かなり繊細な心理描写の回です。詳しく解説していきます。
アオのハコ29話
冒頭、猪俣家でのシーン。
大喜の両親が、千夏先輩についてはなしています。
「あれ、大喜と千夏ちゃんは?」
「買い物に行ったよ。」
「千夏ちゃんと二人で話すなんて珍しいわね。」
「大喜と一年しか違わないのに、大人でびっくりした。」
「千夏ちゃん真面目だから。」
「うん、そうだね。少しまじめすぎるくらい。」
その言葉は、どこか意味深長でした。
そして一方の二人は、難なく買い物を終えた様子。しかし大喜は、行きは当たり障りのない会話で乗り切りつつも、帰りはどうしようと内心ドキドキ。
そんなことを知ってか知らずか、千夏先輩は能天気にこう言いだします。
今アイス食べるのはダメだよね。
思わず「え?」となる大喜。
食べたいけどみんなで食べたほうがいいよね
そんなことをいう先輩に、たまに子どもっぽいよな。と思う大喜。
どうぞ。うちではBBQのとき、好きなものを自由に食べるのがルールなんで。
そういってガリ〇リ君を手渡す大喜。
素晴らしいルール
母さんの方針です。
大喜君ってお母さん似だよね。明るくてパワフルで、まっすぐなところとか、そっくりだと思うけど。
いやそうな顔をしてしまう大喜ですが、千夏先輩はお構いなしにそう評します。
千夏先輩はお父さん似っぽいですよね
んーどうだろう、お父さん何考えてるかわからない人だからなぁ。
そういって、大喜の家に居候する相談の時も、「そうか。」としか言われなかったことを話す先輩。どうやら千夏先輩のお父さんは、口下手なようでした。
と、突然後ろから車が。
危ないっ
言って手を引いた大喜と、千夏先輩の体が触れ合います。
すみません!
またうかつに触ってしまったと、すぐに謝る大喜。
大喜くん。この前のことなんだけど。大喜くんが熱出した日のこと。
忘れよ?
私も男の子と一緒に暮らすってことに対して、配慮が足りてなかったから。居候させてもらってる身として、良くないと思うから。
もうああいうことが起こらないように、気を付けるね。
そこから、何も言わず帰り道。
え、線引かれた?
しかも俺の気持ちを察してるような…
ずりぃ。遠くの目標見ていいって言っておいて、自分はそこで距離置くんだ…
高い壁を、突きつけられた大喜でした。
日は変わって。
いよいよ夏休み。憂鬱そうな大喜を見て、宿題が嫌なんだろ?と雛。
土曜日部活の後に、図書館に籠ってみんなでやろうよ!めいあーん
と、ほかのクラスメイト達が、俺たちも混ぜてくれない?と。
なんだか賑やかな、夏休みの始まりを告げているようでした。
廊下を歩く大喜、雛、匡。すると千夏先輩を見つけます。
大喜以外の二人は普通に会釈しますが、大喜はというと、とっさに隠れてしまいました。
すぐに雛に突っ込まれる大喜。
ほんとなんでもないんだよ。この前も家族とBBQしてさ、みんな仲良くやってるし。
ただ…俺と距離が縮まるのは、「良くないこと」らしいから。
そういわれたら、どうしたらいいのかわからないだけで。
さ、部活いこーぜ
――気温28度。照り付ける日差し、汗ばむ肌をなでる風。
夏休みが、始まる。
感想
うん。これは評価が分かれる回になりそう。個人的にはパーフェクトとまではいかなくても、素晴らしいの一言です。
エンターテインメント性を求めていると、肩透かし感満載。リアリティを求めていると、「まあそうだよな」って感じでしょうか。エンターテインメント派は、さんざんためておいて、結局これかよ!って言いたくなるよね、僕もその気持ちはわかります。でも、今回はとてもいい回でした。
かなり深読みできる描写も多かったので、そちらもすべて解説していきます。
まず冒頭、大喜両親の会話。「千夏ちゃんは大人だ」「真面目過ぎる」というセリフ。これと、「アイスをねだる先輩の子どもっぽさ」の対比。からの、「大喜と線を引く」という再びの大人っぽさ。
国語の教科書か!というくらい、丁寧かつうまい展開でした。これつまり、千夏先輩は内心で子どもっぽさがあるのに、居候として、また、前回大喜のお父さんと会話することで、自分の立場を再認識して、理性的な「大人っぽさ」全開で行くために線を引いた、と取れます。
これ大喜視点から見たら、「自分の好意に気づいていながら線を引く=脈なし」と解釈できてしまいますが。千夏先輩視点だと、もしかしたらそんなことはなくて、ただ「自分はIHのために居候させてもらっているんだからわき目はふらずに。」という感じでしょうか。
ここで、前回の渚との会話もちゃんと生きています。「今は部活があるしね。」と言われたこと。「そんな簡単じゃない」といったこと。恋愛にうつつを抜かしてはいけない、と自戒しているようでもあるんですよね。いやー、効果的な描写するなあ。
ちなみに、「先輩はお父さん似」ももしかしたら伏線かもしれないです。「口下手だから本心を伝えられない」的な。
線を引いたときの先輩の心理描写が描かれた日には、きっと、おそらく葛藤に甘酸っぱさを感じることでしょう。実際、どこか寂しそうな笑みを浮かべていましたから。内心の「子どもっぽい」先輩が、仮に大喜に恋心を抱いているとしたら、「本当はもっと近づきたい」と思っているでしょうから。
けどそれを、IH、チームメイト、自分の両親、大喜の両親、もしかしたら雛も。様々な「大人の事情」が許しません。うーん、切ない。素晴らしい。
そしてもう一つ、「 ずりぃ。遠くの目標見ていいって言っておいて、自分はそこで距離置くんだ… 」という大喜のセリフ。これ、恥ずかしながら気づいていませんでした。
数話前の「スマッシュを入れる」=目の前の小さな目標から、というのは、「千夏先輩を狙うのをいったんやめる」ことの暗喩でもあったのですね。いや、三浦先生天才か。それとも気づいていなかったの僕だけか。
それを「全国」と書き換えさせた全国大会の張本人に線を引かれたら、まあ落ち込むよね。
そして久しぶりの雛登場!ラストのモノローグとともに描かれた、何か覚悟を決めた顔が印象的でした。雛のターン、ドロー!
この夏休み、先輩はIHで忙しい&距離を置くことですれ違い発生、そこに雛が猛アタック。もう見えてるけど、だからこその完璧なシナリオです。すれ違いの恋ですよ。絶対面白い。
まあ部活がどのくらい描かれるのかも個人的には気になるんですけど、みんな恋愛の方が好きだもんね…
ところで、先に挙げた「大人っぽさと子供っぽさの対比」「目標の暗喩」「ラストモノローグの言い回し」が、どことなくあだち充をほうふつとさせます。僕はあだち先生の作品大好きなんですが、まさにアオのハコもいい意味でそのテイストを感じさせてくれて、もう最高です。
次回はCカラーということで、フルスロットルが止まらない。
コメント