先日、細田守監督の最新作である、「竜とそばかすの姫」を二回、見てきました。今回はその感想や考察を書いていきたいと思います。あくまでも個人の意見ですので、その点はご了承ください。
また、本記事は映画をすでに視聴した方向けのものとなっております。重要なネタバレも含みますのであらかじめご了承ください。
それでは、すたーと!
竜の正体について
まずはここから話始めなくてはいけませんね。映画を普通に見ていれば、まあ恵くんが竜だったと気が付けたことと思います。
さて、それについて、ネット上で
竜が鈴に近い人物でなかったのが残念
身近な人でないとかつまらない
というような感想、指摘をいくつか見かけました。
あえて言わせていただくならば、この意見は映画をしっかり見れていないな、と思います。竜が鈴に全く無関係な、恵君という一般人であることこそ、本作の重要なポイントだったのです。
どういうことか。映画の冒頭で、鈴のお母さんが、鈴を置いて見知らぬ女の子を助けて死んでしまいました。その時、鈴は「どうして子どもである私を置いて、知らない女の子を助けたのか」
というようなことを言っていましたね。(細かくは覚えていないのですが)それが、ラストの恵君を助けるシーンに繋がっています。
Belleという、Uで圧倒的地位を手に入れたもう一人の自分。それをアンベイルして、オリジンを晒すということ。つまり、ネット社会という匿名的な空間で現実の自分を晒すということ。それは、ある意味死よりも恐ろしいことです。有名であればあるほど、なおのこと。
今でいうとVtuberとかが、もしかしたら近いのかもしれませんが、人気な方でも顔出ししていない人、多いかと思います。あくまでも、アバターとして、そのキャラになりきっているわけですから、オリジンは関係ありませんからね。
しかし鈴は、恵君に自分がBelleだと認めてもらうため、その死よりも恐ろしいことを自ら選択します。
その時初めて、お母さんが、なぜ見知らぬ人のために命を投げ出したのか分かりました。しっかりそのカットも入っていましたしね。
これが、例えば竜がお父さんであったり、忍君であったりしたら、身内のために命を懸けるというのはお母さんと境遇が違ってきます。それでは、お母さんの気持ちは分からないままだったでしょう。
鈴と恵君との抱擁シーンで、「心を解き放ってくれた」というようなことを言っていましたが、まさに、お母さんについてのモヤモヤした気持ちが晴れたわけです。
ですから、竜は恵君でなくてはいけなかった、あるいはほかの、鈴とは全く接点がない一般人でなくてはいけなかった、という理由は以上の通りです。
竜=鈴にとっての、お母さんが助けた赤の他人
ということでした。
ただ…この理論で行くと、正直、鈴、というかbelleが竜に惹かれ過ぎていた気はします。もっと徹底的に「他人」として扱った方が、お母さんとの対比、再現性の意味で良かったのかもしれません。
恵君、とも君を助けに行くシーン

こんな記事を見ました。
これ、一部「?」となるところはありましたがおおむね同意です。創作物はある程度仕方ないとは思いますが、まあご都合主義でした。
全てを挙げるとキリがないので絞ります。まず合唱団の人についてですが、確かに送り出すだけで終わるのはヤバい気もします。
でも、「鈴が決めたことだから」というセリフにあった通り、本人の自主性を尊重させた、というのがシナリオ上の整合性の取り方かと思います。「あの、隠れて鈴虫のように歌っていた鈴が、まさか自分から行動するなんて」と、感銘を受けて正常な判断ができなくなっていたとか、まあ理屈と膏薬はどこにでもつくわけです。否定的な見方をすればおかしい描写、肯定的な見方をすれば自主性、自立を促す描写。僕はどちらかというと、肯定的に見ました。
でも、「ライフジャケットを渡したようなもの」という記事の指摘には、確かにそうだよなあ、と思います。笑 せめて裏でいろいろなところに電話してたり、そういう描写があればよかったんですけどねー。
ただ、舞台が田舎である必要がないとか、海外だったらどうするのとかは、現実と創作物を混濁している指摘のような気がしました。折木の言葉を借りるなら、「別にいいでしょう、それくらい」
もう一つ、「闘うよ」で幕を閉じ、その後が明記されていない、と記事には記されていましたが、これは見落としがちかもしれませんけどしっかり伏線がありました。
物語で言うと序盤、Belleの人気が出始めたあたり。鈴が、半分も批判されてる!ってところ。
親友の別役さんが、「めっちゃ金はいるかもしれないけど、各種チャリティーに寄付する」というようなことを言っていましたね。そこに、恵君たちのカットもありました。
そうです。BelleはU世界の歌姫として、めっちゃ人気者で、めっちゃ金持ちなはずです。その名声と財力をもってすれば、あんな暴力的な親一人、捻りつぶすことなど容易いでしょう。まあ、会いに行ったときに殺されてた可能性もありましたけど。兎角、「抱きしめて終わりだった」なんてはずがないのは、さすがに分かりきっています。
その他気になった点
ここからは作中気になった点を箇条書き。
・AIの正体
竜の城にいたAIたちが何だったのか、わかりませんでした。なんでご主人様?
・お父さん、うまく活かせてた?
なんか、空気になってた気が…もっとキーパーソンになるとばかり思っていました。
・カミシンとルカちゃん尊い
あそこは神。まじで、神。
・言葉の怖さ
これはインターネットを扱う作品ならほとんどテーマの一つとして扱っていると思いますが、この作品もそうでした。
例えばメジャーリーガの人。傷を公開するときに、「このメッセージが正しく伝わることを願っている」これ、何気ないセリフに聞こえてとても大事です。
あれだけ勇気あることをしても、「売名行為」「人気取り」と、婉曲して受け取る人がいてもなんらおかしくない今のネット社会。あの言葉、僕はとても重く受け止めました。
他にも、別役さんの「お母さん泡吹いて死んじゃう…」のところとか。何気ない、なんら悪意がない言葉も、受け取り手によっては刃物になってしまうという描写でした。
・子どもたちに竜が人気な理由がわからない
これはそのままの意味。ジャスティンの方が、普通人気じゃない?
・ジャスティンと恵君の父親
これ、実は同一人物なんじゃないか、って意見結構多かったですけど、僕は違うと思う派です。
理由としては、声優が違うこと、殴る手が違うことです。ジャスティンは右、父親は左でした。
・絵と歌は最高
これは触れないといけません。サマーウォーズから、やはり映像作品としての完成度は凄まじく伸びていて、美しかったです。まあ、僕は新海誠作品のタッチの方が好みですが。それでも魅了されました。素晴らしかったです。
総評
全体的に、音楽や映像は文句なし。ストーリーは中の上、サマーウォーズには遠く及ばないかな、個人的には。
まあ雰囲気を楽しむ映画として、一度は見に行ってもいいかもしれません、って感じです。
以上、映画「竜とそばかすの姫」についてのお話でした。それでは、また。
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