89話「夢佳って」
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「おはようございます」
「おはよう、おべんとう置いておいたからね。」
そんな猪俣家の朝。
「ねえ大喜君。大喜くんは朝練サボりたいなって思ったことないの?」
「うーん。もちろんありますよ。でもそういう時は、ちょっと先の自分を想像してみるんです。すると大抵は二度寝したことを後悔して、ちょっとだけ自分のことキライになってる気がする。」
「そう思うと、今日も起きれるんですよ。」
「大喜君は真面目だなあ」
思わず先輩が言うか、と心の中で突っ込む大喜。
―そんなこと聞くってことは、千夏先輩も休みたいって思うことあるのかな?あるんだろうな。もともとは夢佳さんがいたから始めたことで。なのに今でも休まないのが、千夏先輩らしいんだけど。
夢佳さんは勘違いしてるよ。千夏先輩は確かに一人で努力し続けてるけど、それはただただ目標があるからで、しんどくないわけじゃない。
夢佳さんには、千夏先輩の近くにいてほしかったな。
そう思うのでした。
「なあ、女子のウインターカップ初戦のチケット、ほしいやつおらん?うちの嫁さんが買ったんだけど、余ってんのよな。ゴール横のいい席なんだけど…」
体育館につくなり、そんな会話が聞こえてきた大喜は、一目散に飛びつきます。
「はいはい!俺ほしいです!」
「いいけど君部活じゃないの?」
「え、えーっと俺じゃなく友達に…」
「じゃあ僕がもらうよ。本人が観る人優先でしょ?」
そういって現れたのは松岡。
「絶対ダメです!」
「なんで?バスケ部の僕の方が観る必要性あると思うけど」
「ならさ、勝負して決めようよ。そうだな例えば…」
「シャトルランで、長く走れた方の勝ちで。」
「お互いの競技だと差が出るし、走りなら平等だろ?」
「どうする?」
「やりますよ!」
そうして二人の対決が始まります。
一方女バスは、試合後すぐに学校に戻って練習というハードスケジュール。歩いて学校に向かう途中、千夏先輩は一度家に。そこで、大喜が通っている歯医者の前を通りがかります。
「後藤さん、あとトイレットペーパーもお願いでいるかしら。」
「はい。」
そこで丁度夢佳さんが出てきました。
「後藤?」
「夢佳って木戸じゃなかったっけ。」
「…私が中学卒業するときに、親が離婚したから。」
「知らなかった。別に珍しくもないし。いうほどの事でも―」
「夢佳ってホント、何も話してくれないよね。」
千夏先輩の表情はこわばっていました。
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